極東冷凍怪獣 ツドラ




原作 デザイン造形 音楽
Comap墨田 (from 2007)


あらすじ

(1)
戦後復興期を超えて安定した経済基盤を築きつつある日本、そんなある日、ニ体の隕石怪獣「黒月」
(国際名Kalamoon)が首都東京を襲った。大きな被害をもたらすこともなく防衛隊に倒されたこの二体は実はロボットであることが判明する。やがて政府から、この事件の背景には地球外からの侵略計画があるとの見解が発表される。大協新聞の記者である西田は、入手した政府内部資料からこの事実に不審を抱き密かに調査を開始する。西田は、政府諜報機関と思われる組織の妨害を受けながらも、ついに探し当てた当時の研究者春日井博士から、このロボットの構造が戦時中軍部によって研究されていた自立歩行戦闘装置の理論に基づいていることを知らされる。博士の記憶から、この装置の資料を一括管理していた主に科学者で構成される特殊部隊カササギは、終戦後ニューギニア奥地で消息を絶ったままだという事実が判明する。


造形資料

怪獣立体模型  彩色立体模型


原作断片

場面q-apo07 隕石怪獣

不規則な円錐形が幾重にも三本の平行線の上に散乱している。六角形の上の緑の丘に渡された流動的な橋。茶褐色で正確な円形の廃屋。取っ手状の飛び出た室内が付属する遊覧船。結局意味が掴めないまま、夜間帯に放映されるモノクロ画面のサスペンスが終わる。

その夜、有楽町ガード下で大協新聞報道三室の忘年会が行われていた。
「西やん、外なんか騒がしいでぇ?」
「なんじゃぃ?」
「回転しながら降りてくるな。」
「あ、二つに分かれた?」
「薄紅色に光ってる。」
ドゴガグァオ〜ォォ〜ン。
「臨時ニュースを申し上げます。墨田川河口付近に巨大隕石落下。」
沸騰する海水。海底を交互に発光しながら移動する2つの存在がある。ザザッ、ザヴォ〜〜ン。

「晴海に未確認巨大生命上陸。緊急避なヴォビヂュオ〜〜ン」
「あ切れた。」
「ラジオもダメなところみると、強力な電磁波が飛んでるようだ。」
「場所近いな、行ってみよう。」
「おやっさん、大協新聞のツケでたのんます。」
「分かりやした、お気をつけて。」

避難する群衆の向こうに炎上する晴海が見える。
「デカイ。南方の魔神ような風貌だ。」
ジュグジュイウオン、ジュイウオン、ジュイウオン、
「やはり凄い電磁波が放出されている。」





「おい君たち早く避難せんか。」
「大協新聞です。」
「この先は無理だ。報道は各社全部逃げた後だぞ。
あの速度だと直ぐに日比谷丸の内まで焼かれる。」
「まずいですね。」
ダダダダダダダダ、バチカコン、
「通常弾では役にたたん。」
「第二防衛ラインを東京駅から新橋駅の山手線に平行させ設営す。」
「了解」
「目標は銀座晴海通り沿いに目下北西に移動中。」
「隊長、ヤツらはすさまじい電磁波を発してますよ。
なんか似たようなビームでも当てたらパンクしちゃいませんかね?」
「お、なんだ君らはまだいたのか。そんな簡単に行くか、馬鹿者。」
「いや、やってみる価値はあるぞ、隊長。」「あ、これは長官。」
かくして東京タワーから午前3時に発射される手はずが整う。

「よん、さん、にぃ、いっち、発射ぁ〜」「発射ぁ〜。」
チュイィ〜〜ン、ビーーー、パパァ〜〜ン
東京駅を一緒に押し崩しながらゆっくり崩壊していく黒い巨塔のような二体の怪獣。
ジジュッ、ジジュ〜ッ、ガラララララ〜〜、ザガァ〜〜

「しかし、どうも腑に落ちませんね。
ヤツら電波飛ばされるまでまるで待機してたようにも見えましたよ。
最初の速度から考えたら、丸の内近辺で
やられるのを待ってるかのような動きだったなぁ。」
「バカ言っちゃいかんよ。何の意味があってそんなまねする。」
「そうですけどね。」
「第一相手は人間じゃないんだ。
だから大協新聞は信用ならんと世間から言われるんだよ。」

この作戦で全電力を使い切った為、夜明けまで東京は暗闇となる。
「やっと明けてきたな、社に戻ろう。」
「西田、あれはいったい何だったんだ?」
「さぁね。どんより曇った冬の空にかすかに光る黒い月。そんなところかい。」
「記事にそんな悠長なこと書くなよ。」

翌朝、完全に破片となって散らばった隕石怪獣二体の残骸回収が始まる。




場面q-esw428 防衛基地

見知らぬ少女合奏団に森林の真ん中に建設された円形演舞場が盛り上がっている。ラベンダーソーダの瓶が数十本水平に並べてある。高音が研ぎ澄まされ過ぎているので正確な発音に聞こえない歌曲。ベザナ、サマンタ〜レ。緑色発光器の改良で早朝の時間を使う。自動配膳装置が稼働してまだ食い終わらない内に片付けられてしまう。残された割り箸を袋に戻す。天井にあるいくつもの小円を辿っていくと出口が分かる仕組みだ。 「朝飯もちゃんと食えんか。まずい急ごう。」

水を半分残してレンズの代理として用いる。数値目標かと思って見ていたら西洋式の暦が拡大されたものであった。ギャランゴランギャラゴカキコン〜粉砕装置が稼働している。キュルキュルンキュランキュルキコン〜時間の経過につれて内部のものが細かくなっていく音響。何度も同じフレーズを繰り返すのでだんだん怒りがこみ上げてくる楽曲が多いので、三回までに限定する法案を出すように要請した件の記憶。不快なのでやめてくれと商店街から懇願された野外即興演奏の苦い記憶などがよみがえる。

「江ノ島なんて子供の時来ただけで道もようわからんぜ。あ、あれかぃ。」
桟橋が改造されて真ん中にチェックゲートが設けられている。 「報道の方ですか?」

「長官、遅れて申し訳ありません。チャリが途中パンクしまして。」
「西田さん、あなたのためにデモンストレーションが20分遅れてます。」
「けっ、大協はしょうがねぇな。」
「みなさん、ではまずこちらを。地下に巨大な滑走路が存在します。」 「地下?」

バタンバタンバタン、ガッガッガ〜、ゴー、
樹木群が左右に倒れ、山肌が斜面に沿って開放する。
キユゥ〜〜ン、
開放領域の内部が上昇し現れた人工斜面が水平まで持ち上がると、さらに山頂が垂直上昇する。キュ〜ゥ〜ン、

「360度自在の位地に滑走路が向けられる構造ですか。」
「新防衛体制の最新技術のひとつに過ぎません。次に沖合をご覧ください。」
「ん〜、いるかの群れが戯れているようですね。」
「そちらでは御座いません。」無理矢理方向を変えられる。
島が中央から二つに分かれ中から現れる発射台。
「侵入するものを大気圏外で打ち落とします。」

「それでは記者質問を受け付けます。はい、ではそちらどうぞ。」
「大協新聞の西田と申します。これだけの防衛設備が急遽設けられた事態とは何ですか? 」
「昨年末の2体の怪獣は高度な技術で造られたロボットでした。」
どわぁ〜。バシャバシャッ、パシャッパシャッ。
「ロボット?」バシャッ、バシャッ、バシャバシャバシャッ。
「政府は先進各国との共同分析の結果、宇宙からの侵略作戦との結論を得た訳です。」
バシャッ、バシャッ、バシャバシャッ、バシャバシャバシャッ。
「政府は、今後起こりうる再度の攻撃に対処するため、各国協調の地球防衛体制で望みます。」
「長官、それにしても政府は何をやるにも遅れとってきた割に、今回だけは動き速いですね。
ロボットの仕組みでそこまでわかるものでしょうか?」
「君、下らない質問は控えなさい。はいでは次。」

「お、西田帰ったか、で何だった?」
「地球防衛だっつんですけどね。どうもシャキっとこんのです。」
「ぬぁにぃー、地球防衛だぁ。」
「はぁ。」
「馬っ鹿もん、他社に先越されるな、こら山田、夕刊にまだ間に合うな?
木村はどこだ?おい西田、写真は?早いとこ現像に回せ。」

「こんばんわ6時になりました。日本国民の皆さん、ただいまから政府による重大発表が・・・」



場面q-tgp975 図面

大きな二つの河川を隔てる陸地を行く。ネオン管で飾られた怪しげな船舶。
暗闇にキリンのような煙突が伸びる。東京湾に出る一つ前の橋をチャリを担いで登る。

「あ先輩、早いですね。」 「西田、久しぶりだな。ハハハ。」
橋を渡り河沿いに臨海工場地帯を行く。ガンガンゴー、ガンガンゴー。
「湾岸酒場廃船」とかろうじて読める看板が見える。

「へいらしゃぃ。おお原田か、そちらは?」
「原田さんの大学時代の後輩で西田と申します。」
「マスターは高校の柔道部の先輩でな。」
「下北でしたっけ?」 「そうです。」
「奥空いてますね。ちょっと借ります。」
「何だ?込み入った話でもあるのかい?」
アザミが無造作に差し込まれた金魚鉢。
着水に失敗した小型機が窓の向こうで半分河に沈んでいる。

「実はな西田、話というのはこれのことだ。」
「なんすか。分厚いっすね。ありぁ細かくびっしり描いてある。なんかの図面ですか?これ。」
「そうだ。」 「何の?」
「政府の役人が研究室に持ってきたものを全部俺が写した。」 「政府?」
「例の黒いロボットの図面だよ。」 「え、まさか。」
「政府も最初は極秘扱いじゃなかったんだ。当初それほどの危機意識は無かったようだ。今は口止めされているがな。」
「いいんすか、そんなもん俺なんかに見せちゃって。」
「いや、お前に調べて貰いたいんだよ。」 「調べる?」
「この構造は奇妙だ。いくつか今の物理の重要な基礎になってるものがある。とても宇宙から来た装置とは思えないんだが、
俺の技量ではそこどまりなんだよ。」 「調べろと言われてもですね。」
「かつて政府直属の特任研究所の物理部門を任されていた春日井博士という方がまだご存命だ。
あの人しかこの構造の全てを理解出来る人物は思い当たらない。」 「今はどちらに?」
「ご実家は新潟らしいんだがなぁ。西田、ちょっと動いてみてくれないか?」

裏窓の直ぐ向こうをネオン船がゆっくりと通過して室内が虹色に輝く。
バンダザラガ地方を描いた縦長の油絵に眼がいく。
「娘も高三だよ、はは。」



場面q-dht34 春日井博士

明け方の最終列車。ボール紙の断片に書かれた単語を確認するための虫眼鏡を取り出す。かつて必要とされていた植物観察用の手帳。連弾でなければ弾けない曲を特殊な技法で独奏する者を見送る。幾つもの扉が開けっ放しになっている。早朝の庭で回転競技の訓練が成される。螺旋状の坂を登ると農業共同体の敷地にいた。ワイヤー数本で仮に固定されてる機械を操作する少年と眼が合う。

「そんなのに乗っかって危なくないのかい。」
「じいちゃん直伝だい、ほ〜れ。」
グワィ〜〜〜ン、ゴチ、ギュルイイイ〜〜ン、
「うわ、やめろよ、もう分ったから。」
「もしかして君のおじいちゃんてのは春日井善平先生かな?」
「ハハハ、その通りだい。」
カチッ、バタン、タタタッ。
少年の指さす先にネコに餌をやっている老人が見えた。

「ほう、それはご苦労さんですけどな。私はとっくに政府とは関係ない身ですぞ。
ここで農作業機械の設計整備で食いつないでおるただの年寄りですがな。ははは。」
「先生、とりあえずこの図面ご覧頂けませんか。」
「君、私は何の役にも・・。むっ、むむ、う〜むぅ、これはっ。」
「先生、これはというのは?」
「西田さんとか言いましたな。本当にこれがあの夜の黒いロボットの構造なのですか?」
「間違いありません。政府機関が分析したものの写しです。」
「う〜む。」 「先生!」
「西田さん、これは終戦間際まで軍が進めていた極秘研究ですな。間違いない。」
「まさか。」
「いや、私の研究室も軍の指示で連動機能の研究をやっておりました。何度も見た構造じゃ。」
「しかし、政府は宇宙からの侵略メカだと言っている。」
「それは嘘じゃろうな。」

イチゴ畑が雪に埋もれている。野ウサギが飛び上がった場所が足跡の間隔の長さで確認される。プラスチック製のソリが垂直に突き刺さっている。晴れているので影が青く明るい。
一面に四枚のガラス。16箇所の角の2つが似たような形で割れている。だるまストーブの煙突が真っ赤に焼けている。



「先生、何を意味するのでしょうね。この事実は?」
「はっきりは言えぬが、少なくても政府にとって隠しておかなければならない事態が起きているのは確かじゃろう。」
「軍の研究はどうなったのでしょう?」
「あれはとうとう終戦までに完成しなかったが、その後のことはよう分らぬのじゃ。
統括管理をしていた組織は極秘で動いておって、
名前以外私らには明かされておらんかったしのぉ。」
「組織?」
「当時の日本の頭脳を結集した部隊らしいのだがな。
そうさの、確か鳥の名前がついておった・・・おお、カササギだ。」

エイの干物が軒下にぶら下がっている。

「近くの農学部の学生の韓国土産じゃよ。そうだ西田君、あれで一杯やらんかね、はははは。」



場面q-kge25 観世音寺

南側の木陰を歩いていく。カゴのような丈夫に幅広に設計された競技場の壁にもたれる。展開図の設計図の接触するべき各々の辺を推測し建設中の作業の困難さを思い、一瞬歩道に棄てそうになった氷片を握りしめゆっくり溶かす。夏だからこれもアリだ。もう一方の乾いた手でチリ紙を出して唇をぬぐう。行動半径を限定する街の造りに煩わされすっかり午後になった。野鳥の形の絵皿、昔ボンベイで見た樹木が生えている。階段が下に向かっていて海水着を着た小学生がワイワイと登ってくる。数十段下は海岸だろう。塀際を移動していた煙突がポンポン船のソレであることがついに分かる。送り出す人並みが在る。別れのテープを回収してもう一度軸に巻き戻すバイト募集。陶器の弁当箱。捜索されたブチ猫の似顔絵。全てが一度濡れてまた乾いたものである。指で表面をぬぐうと薄い塩の層がかさっととれる。自転車を担いで階段を下りていきかけた老人が見ず知らずの西田に挨拶をする。

「あつおますな。」
「はい、都会の者には辛抱きついですわ。」
「あっと、こりぁ。てっきり参道裏の間嶋さんのご長男かと間違えましたわ。」
「はは、このへんの者ではないですわ。いくつか近辺の島を調べて回っとります。明日東京に帰ります。」
「何を調べていらっしゃる。この島は何もない所ですがね?」
「いや戦中の兵隊さんの行方なんですがね。
何通かの手紙と写真を頼りに、みつけられんかなぁと。」
「ほう、それはえらいこって。お知り合いかお身内ですかな?」
「そんな話ですわ。」
「八月頭の暑い最中になぁ。まことご苦労様で御座います。」

ミンミン蝉と声明が入り交じった音響が聞こえる。観音開きのハイヤーが数メートル先で客を乗せている。砂埃がゆっくり流れてくる。

「観世音寺の和尚さまが出征されたこの島の人のことは大概覚えてましょうがなぁ。
はたしてあんたさんのお知り合いがおるかどうかは・・・。」
「ああ、まことありがとう御座います、ご老人。」
「気をつけて行きなされよ。島の裏に渡る難所は崖じゃ。」

カラカラと幾つか砕けた岩が湾に落ちる。錆びた鎖にぶら下がるようにして崖道を行く。渡りきった先に鳥居が見える。ぎりぎり日が暮れる前にたどり着き安堵する西田。

「ああ、滝野川の次男さんは本当に秀才で御座いましたな。軍の特別なお役までなさったらしいですが、とうとう南方から戻られませんでね。奥様は東京におられますよ。明日役場で住所聴きなされ。」
「本尊は薬師ですか。泊めてもらえて助かります、ご住職。」
「薬師も観音も仏に代わりは御座いませんでのう。はっはっはぅ。ゆっくりお休みなされ。」

漁船が網の取り込みを行うのが優先で出航が遅れる。
「博士、カササギの部隊長滝野川重史郎の履歴は全て掴めました。」
「えっ何、滝野川なのか。」
「博士、ご存じなんで?」
「君、滝野川重史郎といえば、戦さえなければ今頃世界五本の指に入る数学者じゃろう。」
「その人が部隊長だそうですよ。」
「おお、これはえらいこっちゃなぁ。」



場面q-amz17 湾岸都市での調査

状況に不釣り合いな二つの窓が連続して現れ即座に消される。密度の異なる白黒模様の布地が前後にあり異なる揺れ方をしたので目眩がする。弾丸のような響きで甲三番が落ちる。湾曲する葉の縁で軽く指を切ったので血が止まるまで舐める。回転構造の照明灯の半分も見えないのに直径を正確に予測できる能力。歓迎を示す三段の英文の隙間から前後する二つの食卓がある。ガラスの隙間に挟まれた木枠で数箇所文字が読めない。アンドロイド或いはアンダーグランド、アンドロギド、ランドロウザ・・。いくつかの可能性がある場合、無限可能性も考慮せざるを得ない。サンドロイズ、バンドネオン。適正ではない感謝の言葉で送り出されて、止めた場所に漁業用自転車を見いだせず乾物屋の二階の人に訪ねる。30分ごとに撤去班が回る法律の為、既にパチンコ工場の部品に利用されている頃だと判明し、無言で去ろうとする。

「あんたもし、教えてやったんだから100円ぐらい何か買いねぇな」
「お、それは失敬、仁義ですわな。じゃパイナップルジュースと烏賊素麺パック。」
二階からゆっくりカゴが降りてくる。品物と代金230円を交換する。「まいどね」。
スルスル〜。

缶ジュースを飲み終わって烏賊素麺を食うかと思ったら箸が入ってないので小枝を探して何とか食う。昔の作曲物であまりヒットしなかった曲を他国に行ってオリジナルだとして一儲けするバンド計画のチラシ。張りぼてのようなかわいい仁王が赤青原色で塗られている。夏祭りで巨大な山車を出すので電線が取り払われたという記録。五角形の計算法、錦バッタ(変化型)の駆除対策、自壊的な装置が砂漠の果てで爆発する写真。全てが日に焼けてボロボロだ。水中で停止するためにはモーターを停止できないことを理解させる授業、か。25枚の録音物を送るために厳重な梱包をする。など。廃校を背に坂を降りていくとハシケにたどり着く。

「もうすっかり日が暮れたな」
部隊長滝野川の継続調査でおもむいた湾岸地域を一日歩き回った西田だったが、その日は何の成果も得られなかった。帰った安宿の窓から海を眺めると半島で花火大会が行われているのが見えた。湾内に無数の納涼船が浮かんでいる。「こうなると後はあの地域しか可能性は無いか。」

「ああ、西田君か。どうだ成果の方は?」
「何?ああ、それは薔薇谷という半島地域でカササギに関わる当時の施設が在るはずじゃがな。」
「博士、なんでそれを先に。」
「んん、お、確かにこっちの資料だと鉄塔の上に収納されたとあるが、どうなんじゃろうな。」
「博士〜。」

トリの大花火が上がった瞬間、島の中腹に紫の光に照らされた鉄塔が確認された。
「西田君、それじゃ明日行ってみることだ。明朝まず瀬戸内湾岸大学鉱山学部の半田研究室に連絡してみなさい。」



場面q-ksw74 鉄塔湖の秘密

多重関連によりひもとかれた通知が自動管理される。人民に関わる行動記録のようなもの。翻訳するにはまず母国語を熟知しなければならない。添付される果たし状を理解できずに廃棄装置を作動させて後でそれに気付いた組織の行動。ベル型の靴。転校生の横着な自己紹介に白ける教室の窓。参観日の予定はほとんどが偏西風に関わるので遅れる。他国から打開策を見い出す。本筋は妥当なのに反対する思い。魚類とトマト。ひどく短い上着の裾を円形に切る女とその結果の晩餐会では、サンダルの危険性を理解してないので停止する。ガラガラヘビの音を聞き振り向くと、それはたあいもない三輪車の回転音であった。

「なんだ、まるで廃墟から拾ってきた三組のかざぐるまのような装置だな」。初めて会った研究助手に対し、そんな照れ隠しを言ってどうするんだとすぐさま西田は思う。





「不規則構造を意図的に取り込むことは私には困難なのに、どうしてこんなものに簡単に起こるのかしら。」

その予期せぬリアクションにはっと立ち止まる西田。錦鯉の池の水面に映ったどんより曇ったこの見下ろす空のどこかを確実にヘリが飛んでいる。

「いくつかの謎を解決した結果言えることは、謎が謎を呼ぶということなんですよ。」
「つまり総合的に見て少しも謎は解決してないと言うことですわね。」
「いえいえ我々もそれなりにやっとるのですよ、が、なにしろ資料が戦前の古い形式である上に欠落が激しい。」
「こちらへは春日井先生からのご指示で?」
「 はい、まずは丸逆島の鉄塔の上に格納したという記録がある資料を回収するということでして。」

霧につつまれた湖面に時より泡が吹き上がる。「何かが住んでるのね。」手動プロペラを回す単純な力学構造にやけにふさわしい光景である。

「水中に本当の入り口があるので一度潜りますわよ。」
「戦時中の構造なんでしょうなぁ。」
「大丈夫、水は美しく空も晴れてきました。」

メタルでカラシ色のアクアラングが湖底に向かってゆっくり降りていく。俺のがピンクというのはどういう組み合わせなんだと思った瞬間、薔薇蟹が島を守っているんだという婦人会の話を思い出しその旨を伝える。「あら?それってどんな魔物かしらゴボボ。」流動的な黒い髪の形状が自然に水流をとらえるのが見えた。しなやかさが肢体に連動している。

「西田さん急イデジュァ〜グゴゴボ〜。」
「ゴボボグ了解デスゴボボ。」

真下をゆっくりと移動している巨大生命体が大きすぎて気付かない二人。やがてそれは遠ざかる。

丸逆鉄塔のアクリル製の海中ハッチが戦後初めて彼女の手で開かれる。自然光を取り込む仕組みが地下まで行き届いており中は意外と明るい。

「油断して足ひれを片方流してしまったよ。」
「帰りは地上ハッチから出ますから大丈夫ですわ。」

アミダ式三重螺旋階段なので数度の過ちを経てやっと二人は塔の最上部に到達する。窓から見える数キロ先の山腹に何らかのガラス構造がありキラキラ反射している。村営植物園以外考えられないだろうな。

「西田さんこれよ。」


場面q-pwm32 古代美術館

煉瓦煙突と振動。浮遊するナンバーセブン。到達点を予測して呼吸する。不自由なDフラットを回避してメジャー調になった夏の時間。後悔しても歌ってしまった。最果ての湾岸都市から湾曲路線の二両車両の座席シートに補修の後を見付けそのあまりの丁寧さに感心する。夕暮れに見えなかった山脈が夜空との輪郭線を際だたせる一瞬が夜の最初の段階だと定義する。連続してひとつの山だと主張し誤りを指摘される。彼方とはいえ対岸が見え、そこは最北端の巨大な島だと分析されている。海を越えた向こう側の山脈づたいの主軸街道の古地図が展示されてある。海と陸の関係は重要ではなく、山脈が人民に強いる地形から導かれる交通経路の必然が地図となる。最果ての町が存在する。経路から重要度が低い地域は描かれる面積が小さいが、位相的な誤りは現代の科学においても見いだせない。連続する入り江の構成を示す海図。バラバラにして組み立て直す為には切断箇所を相当吟味して行う必要があるとガラス越しに思った。案外小振りな殿の肖像彫刻がおかれてある。さらに上位の権力者より大きな像を造ることがはばかられたのであろうか。あるいは資材が不足したためかもしれない。

分断された箇所から色彩的な人物表現が連なり、同じガラス構造の内側に異なる概念の展示が複数在ることを理解する。非現実的に原色表現された絵画上の人物と、数十年から百年ちょっとの昔の写真記録による現実の人間の情報がモノクロであるが為に、そこに二重の対比効果が生まれている。しかし双方は同じ文化テーマに基づき構成されていることが重要である。モノクロといっても、写真群は時代ごとに変色の度合いが異なり総合的に捉えれば微弱なトーン変化を持つとすべきである。また完全な無彩色の図像も数少ないので、原色の絵画群と色彩の完全分断が成立している訳でもない。

西田は狭い歴史博物館の展示室を抜けて、それと不釣り合いに広々したロビーで連絡を待つことにする。閉館時間までに30分もないが、黒月から回収されたカササギの受信機への連絡電波がとぎれてない以上、必ず滝野川博士は現れると西田は再び心で確認した。と同時にショルダーバックの中でピピピと鳴った。あわてて取り出した装置の電光表記を乱数表と照らし合わせる西田。「最も下の扉がここに繋がる」という情報と即座に判明する。地下三階は閉鎖されたお手洗いしか御座いませんわよ? そこへの階段は? カタンカタンカタン。




場面q-tu967 定義

淡く七色にも見えるL字型の地形。回転しながら倒れていくクレーンのアームが寺院の向こうに隠れつつある。ふと数枚の領収書を車内に置き忘れた事実に気付く。路上に落ちたサングラスに映るまぶしい夜間照明。鈴虫が鳴いている。

「西田さん。定義を変えることは全ての過程が終了していない以上出来ないでしょう。
我々は根本で与えられた定義のもとに行動しているのです。」

「定義?守るはずの自国を攻撃する、そんな理屈があるとは思えない。」

「我々は最後まで戦うことを命じられた。」

「戦争はもう終ってるんです。」

「いや、終らされたと言うべきです。」

「それはしかたがない。やはり終るべきものと納得したから終ったのです。」

「それを導く条件が外的にもたらされた為の強いられた選択に過ぎない。
絶対の意志ではないでしょう。」

「いや、意志だ。国民の全てがその理由を聞き、そう納得したんだ。」

「西田さん、あなたは結果を恣意的に断定し、それによって事実をあまりに簡略に捉えていませんか。
日本国を現状拘束する条件が排除できれば、本来の定義通りに国総体の使命を完遂する可能性は存在する。
そうである以上我々は最後まで行動するのです。」

「使命とは何です。」

「我々日本人がそうであることを規定するものに一致するための行動です。」

「抽象的すぎて私にはよくわかりませんけど、それは個人個人の問題ではないのですか。」

「個々の国民の意志が国総体と一致することが国民たる根拠でしょう。
我々は個人で完結した意志を持つものでは無いのです。」

「滝野川博士、だからそれはもうあの日で終ったんだ。あなた達だけ知らされてないんです。」

「いえ、今本土には一時的な拘束が及んでいるのです。本土国民はそれに気付いていない。洗脳されている。」

「国民の誰ひとり戻りたいとは思っていないのです。」

「その迷妄をもたらす現政府を排除する時、再度国総体の意志は確認出来るでしょう。」

「政府を排除?」

「そうです。最終的な国総体の目的に向けて傀儡政府を排除することが我々の与えられた最初の作戦なのです。」

「それは間違っている。あなた達は状況から取り残されてるんだ。日本も世界も変わってしまったんですよ。」

「西田さん、予定の時間が来たようだ。またお会いできる。」
チチチチ、カコ〜ン、カコ〜ン、

「待ってください。博士」
ギュル〜ン、キイッ、ドタン、バタン、ブォロロロ〜。



場面q-wso021 東京湾防衛作戦

星空を記憶する装置。晩段貝殻の過剰繁殖地帯。目覚しい進展を成す軽量飛行装置の実験場。打ち寄せる失敗機の残骸を回収する仕事。午前三時の集合を告げる鐘が鳴る。円柱が乱立する箇所に白い一団が駆け寄って行く。夜明けの農園を抜ける。妄想だけが繰り返され進展しない徹夜の議論が行われる職務室。報道規制が解かれ誰もが本音を書き始める。斜めに切ってある連絡用暗号盤が無駄になる。側溝から伸びる怪奇植物が腰の丈に成ったことを記念する婦人たちの会合の横を通過して何度か道を曲がる。坂を降りると登りになる。寺院の裏手が校門であり小学生を安全に通過させるための黄色い旗でやがて交通が遮断されるだろう。明け方の三味線が耳障りだといううわさがある。雪が降った日のために安物のソリを買っておく。塀の上に黒猫。ガラス戸は閉められているので裏の社員口から入り特別にきのこ天丼を注文する。

「西田さんにはまいっちゃうな、まだ仕込み前ですよ。」
「ごめんね、面倒な資料漁ってたら、明け方腹減っちゃってさ。」
「ラジオ体操第二ぃ〜、チャンタッタ、タララララ・・」
「まだ7時前なのか。」
「チャンタッタ、タラリララ、両手を前に出して体を後そらしぃ〜・・」
「はいよ天丼一丁。」
「朝の体操の時間ですが重大ニュースが入りましたので報道部から・・」
「東京港沖合いに宇宙怪獣出現、政府地球防衛隊が応戦中・・・。」
「またかー。」
「最初の映像が入りました。」
ビュゥ〜ゥ〜ン、チュゲリャリャン、ビュ〜ヒィ〜ン〜。
「うわっかっこわりい、どう見てもガマガエル。」
ビュィ〜〜〜ッ、ビガガァ〜ン。怪獣の眼から発射される360度回転ビームが
夜明けの海面を虹色に輝かせる。
「見たところまだ湾のかなり奥みたいだ。
報道のヘリから撮ってるんだろうか。」
「江ノ島防衛基地からシードリル1号が発進したとの情報が・・」
ザップォ〜ン。「あ出た出た、近場なのにわざわざ潜ってきたんだ。」
「回転ビーム反射作戦開始ぃ。」
ビュゥ〜ン、ビュパ〜、ピカツ、パッチャ。
「わ、当たった。」
ドッゴ、ゴッガガガガン、ドッカ〜〜ン。
「西田さんガマのやつ派手に出たわりに簡単にやられちまったよ。
大事無くてよかったけど。」
「け、宇宙怪獣がガマの格好な分けないぜぃ、ありゃぁやらせだ。」
「?」



「お昼のニュースです。本日明け方東京湾に・・・・。
それでは官房長官の談話を・・・。」
「宇宙侵略ロボットの虹色ビーム攻撃に苦戦するも江ノ島地球防衛隊の決死の作戦により
東京上陸は食い止められました。今後政府の防衛体制はさらに・・・」
「税金無駄に使いやがってバカヤロー。」



場面q-enb408 博物館

意外と無造作に置かれた西洋の芸術品。
こんなガラスで出来た飛行体が本当にあるなら、上手く寝そべれば空中浮遊をしている感覚が得れまいかとふと思う。

「西田さん、私はこの場所が好きでしてね。学生と一緒によくきました。」
カツゥ〜ン、カツゥ〜ン、キィィ〜ィッ。

「先生、政府の戦略をご存じないのですか?」
「はは、いろいろと考えるものです。確かに我々もいくつかは論法を変えないとならないでしょう。」
「黒月やバラガンぐらいの戦力では、たとえ一時的な成果を上げたとしても、政府はむしろそれを情報操作の材料にしますよ。
痛手を受けるのは一般市民だけだ。」
「我々は攻撃に際して国民の犠牲を最小限にする努力をしている。バラガンが最終的に自己崩壊した理由が分かりませんか。
黒月の作動速度は限界の十数分の一程度に落としてあった。
そして、私はあなたにこうして国民にとって必要な情報を全てお伝えしている。」
「では、カササギはこれまでの戦力以上の力を持つと?」
「一も十も現作戦では大した変わりは無いのです。」



「西田さん、この博物館の収蔵品にはいくつか説明が間違ったものが御座いましてね。」
長く暗い廊下の突き当たりに第十六室というプレートが下がる。
暗いガラスケースの内側に崩れかかった土器群が並んでいる。
「これらは前期縄文時代に含まれるものですね。」
「一万年以上間違っているのです。いくつかはツドラに関わる遺品です。
体系に含めることが困難な事柄を論理から排除することで歴史が定点観測的に完結させられる。
これもそうした悪しき例のひとつでしょう。」
「ツドラ?」

カタ〜ン、カタ〜ン、カタ〜ン、
「西田さん、またいくつかお話出来る時が来たらこちらから連絡させて頂きます。」
バタン、ブォロロ〜



場面q-ore317 古代研究

「おそらくは滝野川の父親の研究がもとになっとるのだろう。滝野川光蔵と言って、この人も大変な歴史学者だった。
重史郎が幼い頃と思うが、とうとう大学からも学会からも追われしまっての。」
「学会?」
「あまりにとりとめもない説を強行に主張したでなぁ。」
「二万年前の発掘品の?」
「それはごく一部じゃろ。様々な宗教文献の論理を比較し詰めれば、
さらに古代の大元の論理が導けるという風な説じゃった。
最後の氷河期までに南方からシベリアまで統一された一大モンゴロイド文化圏が形成されており、
その政治理念までも語っておっては、当然軍部から眼をつけられてもおったじゃろう。」
「詳しい資料は残されてないのですか?」
「そんな状況で出版など無理だったんじゃなかろうか?
東都大に研究室を持っていたほんの一時期の弟子に事情を聞くぐらいしか手は無かろうが、
はたしてそれも探せるかどうか難しい。」

割れていた二箇所のガラスが修繕されている。
早朝のラジオ体操から帰宅する途中豆腐屋に立ち寄る父と子。
逆さまになった蟹の甲羅に白詰草が生長している。
「東京に戻ったら本郷に行ってみます。」

明け方上野駅に到着する夜行列車。無言でホームを歩くまばらな乗客。
西郷隆盛像の下で折りたたみ自転車を起こし湯島方面へ向かう西田。

「朝っぱらからすいません。」
「いえいえ、どうせ昨日から泊まりの実験で今から寝るところですから、ガハハハ。」
小さな展望台を持つ講堂の裏手に連れて行かれる。錆び付いた重い鉄の扉。ギゴォ〜〜。
「うわ、こりぁカビくさいですな。」
「私も始めて中入りました。」 「恐れ入ります。」
「どの研究室も管理していない戦前の資料となると、残ってるとすればここしかないでしょう。」

昼をまわると薄暗い部屋の一箇所に日差しが入り込む。その箇所に眼を向けるとホコリまみれの木箱がある。

「滝野川光蔵先生の御研究 滝野川研究室助手 田島和夫」

空けてみると手書きガリ版刷りの書籍がびっしり入っている。
パンパンパ〜ン、「ゴホホォ。」



場面q-kyt561 電話

果てしなく続く海岸沿いの薔薇園をシオカラトンボが海に向かって飛び風に押し戻される。
丁度半分だけ曇ったあたりに夕日が沈む。漁船団が遠のく。
紅茶をこぼした後がそのままになって数年経った痕跡を見つける。ジリィ〜ン、ガチャっ。

「なになに?ほぉ、そんなものがありましたか。なに?田島と?」
「はい。」
「田、島・・・。当時カササギの視察でワシの研究室に一度だけ学者が来たが、確かそれも田島じゃったなぁ。」

電話ボックスの扉が閉まらないので放置する。
気配に振り向くと逆さまに飛ぶ蝶がある。




場面 q-moi648 深夜急行

ザンバンダンガ放水装置が近所にあって走行する邦人の原付を転がす。陶器の割れる音。先端が曲がっている。くちなしの花を先生が笑う。行動力のない伝達舞団による変則的な嵐。ミンセンコンタクトランラダマンジョリカと聞こえる。長年の期待数値が示される奇談。網状良好近状と落書きされる。湖底を移動する薔薇色の甲羅、鉄塔のゆがんだガラス窓、尽きることなく供給されるりんご畑がセピア色に記録される。百年前のボロキレ。意外とおかしい創造するだけの微細発光の水中移動を見つめる。満遍なく苔むす岸壁の真下に至る。予期せず理論的に正解になる。道半ばで電卓を開き走行して明け方を待つ。長い鉄橋を超えると軽快に汽笛が鳴った。「しまった二駅以上乗り過ごしてるぞ。」

sound http://revorida.2-d.jp/071007.htm



場面q-dez771 取材

石粉にまみれた断片。切り崩された三角形の頂点が共有されて立体的な空洞を形成する。積層を確認しながら時代を逆に積んでいく作業。巻貝は非常に珍しく、それ以外のほとんどは原型をとどめない真っ白な欠片であり繋ぎ合わせても一個に戻る可能性はない。丘のふもとの海抜まで頂上を掘り下げるために数年を費やしたことが光景から推測される。

「いくら掘り下げても貝殻ばかり出てくるようだね。ここいら昔は海の底だったのか?」

黙々と与えられた仕事を遂行する作業員の傍らをリヤカーを引く年寄りが行く。キセルの柄が長すぎて重さで唇がゆがんでいる。夏場が終わるので伸びきった藪を刈る集団がいる。

「はっはっは、貝塚を崩してしまったもんでこの山にもう霊力はないさぇ。ただの畑となっておりますよ。」

そういえば到着からの夜毎の砂嵐が気になる。空中で合体する回転技と数種類のパズルを分離して個別に完成させる競技の解説が終わり、スイッチを切ったつもりが不愉快な共同謀議の言い訳をやる特番が始まり朝方まで見てしまう。水平に置かない限り飲むことが出来ない構造の酒瓶に難儀する。天井を見上げると蛇のような木目が並んでいて頭はどっちかと考える。思い出して水色の双眼鏡を透明の袋にしまう。

「西田、政府の地球防衛二次戦略とやらはガセだった。そこは役所がらみの民間開発だ。大したネタもない。」
「見たとこどうもそんな風です。」
「すぐ帰って来い。あとな、領収書取ってない分は自腹だ。」
「部長、勘弁ですよ。」

sound
http://revorida.2-d.jp/071010.htm


場面q-djz418 居酒屋 アラハバキ

番線を選んで束ねる。数十年も棚上げされた料金表の偽りで年寄りが途方にくれている。毎回結論のためにだけ演奏するので聴く前から苦痛が予想される楽団。全て自分以外であることで安心できる病を前提とする国家体制により萎びていく芸術運動のループ機能がほぼ完成しつつある。窓辺に席を取り四季を見つめながら卒業した思い出。四段組のエイリアン。銭湯のある渡し舟。地下に集って人形の売り買いが行われ、やがて最後の一体がベースギターの振動で巨大化する。気まぐれによって分離する。飛行形態が無茶なのでデザインが変更になった。行こうと思う方向には曲がらないハンドルの実用化策とか。サボっている方が収穫が多いという農場の現実がラジオで語られ感動。窓辺にはベンガル湾。片手でハンドミラー。正常に作動しない分光器数百台が箱詰めされて出荷待ち状態。小銭でどうしても払いたいのでカバンをひっくり返してあと二円を見つけたい思い。そんなことばかり思ってLPの棚を見つめる。

「めくるめく 晩秋にサクラ 猪鹿蝶 字余り。」

「あら西田さん飲みすぎよ。」

sound http://revorida.2-d.jp/071015.htm




場面q-omr967 山河迷妄/北上する泥流

湾曲の内側をどんどん進んだが途切れた河川をついに諦め、うろうろと北上し山脈と大河を越える方法を探すしかない。高度一万メーターまで引き返し地面を再び倒すと、ほぼまっすぐに抜けられる空間が確認されるが、途中で濁流に飲まれることに納得しとりあえず尖塔宿へと向かう。二割り増しで尖塔頂点の部屋をとるが先客と相部屋になる。透明な頂点部分に内側から頭を突っ込める優れた展望機能。酒を飲み交わしながら偏西風など助けにならぬであろうことを教わる。高度4千メートルと言っても平地がすでに2千メートルということも考慮するべきである、とか。火山地帯なので誰もが一度温泉で体を休め明日に備えたに違いない、とか。四方位にそれぞれ備え付けられた双眼鏡にコインを入れてかわるがわる覗く。急激に降りなくては成らない坂の途中の茶店、がけっぷちに棺おけ、一面の壁しか残っていない建築物のアーチ上の出入り口をくぐる商隊の亡霊、無理やり山肌にへばりつく高速道路が場違いに大手を振っている現状、などを瞬時に記録する。サンダルで峠を越えて張られた一本の綱を用い対岸へと渡る高度な技術が日常を支えている。大雨の後地形図のように山脈が彩られ、便所の出窓からよく確認すると250メーターごとに虹色のグラデーションが確認できた。

ハシミカム街道第二伽藍の完全なる崩壊が起こる。見えない壁がピキピキと崩れその見えない破片に埋め尽くされた連携彫刻群が下方で押し重なり製作者の意図しない抽象変容を成す。人知と自然現象に相互支配された歴史文化があらゆる箇所で斜めに蓄積されている。そう言っても横断する連絡路が高度差数千キロをものともせず形成されてもいる。山脈が途中平たくなっている箇所に出来た生活文化の推移を手帳にスケッチする。南方の眠りの中から泥流が北上し凍結した湖面のような河川表面を目指して巨大化して行く。油断した海賊船が遥か北方で氷に挟まれている。数百年ごとの記録の蓄積から地域民はいくつかの非難領域に手際よく向かってる。やがて青く暗い泥流の塊が流動しながら生命であることを示す。

「生き物だろうか?」
「命と言ってもワシらには成すすべも無いのだからむしろ運命と言った方がよかろうぞ。」
村落の長老と思しき老婆が杖にしがみつきながら段々畑から振り向きざまに答える。既に山腹のかなりの高さまで泥流が登り次々に村落を飲み込んで行く。湾曲箇所に勢いは阻まれそこで力が垂直方向に立ち上がると運命と呼ばれたソレの具体が一瞬現れる。ギュワゥォーーゥォ〜。巨大な土石泥流を制御する機能を持つ合理的な皮膚構造が金属的に輝く。正円と正三角形。眼球は夕暮れのオレンジに調和して美しい。そしてまた直ぐ泥流に沈んだ。



「メコンガーは必ず南から現れ北に向かうと言い伝えられておるが、まさか生きてる間に現れるとは思わんだったぞ。」「さあさ御老人、お急ぎくだされ。」ギュグワオヲ〜〜〜ン。「急いで、ナーガンダ山脈のてっ辺まで行けば大丈夫です。」ゴチっ、ガラガラ〜「うあ、しまった、うわ〜〜〜」ザップ〜〜ン・・・・・

「おお西田さん気がついたか。最上階は尖塔の揺れが大きいから酒飲んじゃいけないと中国語で書いてあるなぁ。」

sound http://revorida.2-d.jp/071021.htm


場面q-pds-109 キュパソラン村営航空資料館

上空で切り離しをスムースに行うために特殊ギミックが考案されたという証拠。その日が晴れていたという証拠。機体が地表で予期せぬスピンを行い飛行士が負傷したという証拠。黄色い首輪を鳥のように飾る必要。真夜中に高く掲げられた時先端のガラス窓から覗くことができる僅かな室内がある。地面が田園で区切られる。開くことができない構造の完全な唇。舌の位置に直方体が安置されている。芝居小屋に隠された未完成の約四分の一。白く包まれた総体の隣に裸のテントが並び左隅が黒く三角に覆われた垂直面の二万六千枚ほどのムラサキアクリルの直方体が薄く積まれる窓のような壁。縞々の縦長の状態にある壁。

明確な意図が掴めないまま去るのはもどかしいが、列車がくるまでの時間しかなという思いで扉を閉める。ギギガガッ、ギィーコォー。自動拝観料徴収装置に五円玉を十四個乗せ釣り合いが取れたので次の扉が開く。裸電球一個点灯させるのにさらに五円かかる。

暗がりから浮かび上がるひどく鋭角な種類の表面をはずすとギザギザの構造で充満している。☆印が共通しているのに敵対している事の謎。放射状のスカートが四つに割れ燃えながら落下する。帰還する事が行く事より難しいという認識。塗られている黒いラインが非対称だという事が正面からだけ分かるデザインの前でゴルフをする男の謎。ほぼエイと言ってもいい形状の影。野ざらしの研究成果の残骸。三分の一ほどで霞をかける空。卵を改造した翼のない機体で飛ぶために地平線手前に並ぶ。四角い穴の開いた影法師に遠近法が掛かりいつのまにか正体が捉えられる。アルミボディが流線型に輝く時は美しく、近くで見るとくすんで映る。先端のアンテナを尖らせる技術者の養成があったという証拠。牽引操作に依存しながらひらりと浮き上がりやっとの事で安定し始める。赤い細い輪郭の三角形に車輪がついている。単純な正方形が菱形に変形させられ空間の拡張作用が起こっている。 よく似た機体が並ぶ湖畔離陸基地からの連携。山脈の手前に位置する不定形の水路と黒枠の一辺。記念撮影を行うならわしがある。アイボリー色の乾いた地面にアンテナの影までを投射する。対角の白黒が何十枚も並ぶ車輪の上の土台に乗せてここに来たと証拠。つまらない四輪車もいる。巨大空輸機が駆り出され左翼に下げられている。

列車がプラットホームに到着しているので半分も観覧していないが最終出口へと急ぐ。最終出口の縄梯子を使うと難なく第三番線ホームの中央箇所に登れるという情報を監視員から伝えられる。不気味な雰囲気を漂わせていたが実は親切な婦人だった。列車は既に動き出している。ガッッタ〜ン、ゴッドゥォ〜ン。飛び乗った最後尾の乳牛運搬車両で牛と一緒に眠るはめになった。藁束の上に横になりラジオをつけるとハゴンに襲われたシュクッチャウマナン地域の報道が流れていた。



場面q-cxs094 日没の演舞場

V字型全翼機を特撮映像だと偽り代わりに無版権プラモの説明図を本物らしく説明しての講義が終わる。看板は「べラドンナ逆様に飾られる時」と読める。縦長の枠の一番下を移動する灯りが見え、天井の巨大な円の中央に位置する照明を吊り下げるために規則的に張られたワイヤーによって投影される交差図形が消される。明け方を目指しプキンチャピラ峠に向かう。単純な法則と無関係にその円周内に一個だけ配置された電球一個であらゆる演目が照らされる。完成しない歌曲を持ち歩くためのテープデッキにひっかっかってフルハウスの内一枚が裏返ってしまっているのに気づかず勝負してまける。束ねられたグレイと湾曲したホワイトで電信と入力が成り立ち、せっかく注いでもらったアツカンがどんどん冷えていく申し訳なさをひしひしと感じる。運悪くも万全のピアノ曲が漏れる対面席に到着し難儀する。テクノロジー進化の果てにところかまわず歌う老人が珈琲一杯の注文で座る席を巡りごねまくっている。縮小化されいつでも鼻歌表現が可能となった驚くべき三重構造の室内で禁煙なのにタバコくさい。無意味に回転機能を逆にした輪転機に嫌気がさし分解して捨てる。そういえば立方体が流動化したガラスと縦折された千円札ほどの紙片に隠された計算式があった。おそらく水槽であり深海魚の銀細工が沈められている。傍らに角を落とした安全なケースにのっかって渡された三種類の鉄器。老人は去り行く時も何かくどくど言っている。ブースの向こうの窓の手前から見えなくなる。三種類の接着剤をどこかに置き忘たがために小型バラライカの製作が遅延する。残り少なくなった燃料メーターをみて計画を変更する。村落にたった一箇所あるという電話を借りることに成功する。
 

「おお西田か、一ヶ月も連絡なしでどうした。今どこだ。」
「すいません、どうも中国の奥の方に来ちゃってます。」
「・・・・(拳」
「下関で車両ごと間違って積まれちゃったんですわ。
金尽きましたんで送金たのんます。たまたまパスポート持って来てて命拾いですよ。」
「バカか。」
「いや、世紀のスクープいくつか撮ってますんで。」



場面q-fgd311 スキリザナハムンバ尖塔観測展示室での再会

円盤を二枚平行につなぎ回転構造を与えた器具に100キロメートルの電力線を巻きつける構造の正確な表記。全ては盤面上で空間構成され試される。垂直の上に水平を積んで陰影をつけて拡張しなさいという問題に取り組む。鎖を複雑に構成して色を塗る。美しく狂気的なデッサンの主体に近づく。同時に男性的な操作の鉛筆の線の繰り返しが固定されたもの。わんこそばのようにコーヒーがどんどん注がれる。メタリックに一種映る飲料のパッケージに立ち止まり15円支払った。もうこれでいいということがないので何万枚ものデッサンがやりっぱなしで積み重なるという現実。かさばるのでやがて捨てる必要が生じる。さまざまな錯乱のような記憶を経過してまぶたを開ける。高い天井でゆっくり回転するファンがおそらく五枚羽だと予測するもののどうしても正確に数えられない。

「いつもどこかの博物館でお会いしますね。」
「あ、滝野川先生!どうして?」
「いえ、実は下関であなたを見かけましたもので密かにご一緒させて頂いていたのです。」
「なるほど、あのアーム機能付の運搬船はカササギのものだったんですね。」
「ははは、西田さん、あなた移動中眠っていました。あれは高速深海艇です。」

枯葉と牛骨が創造的にあしらわれてまっすぐに掲げられる。ヴァンナンビチャラハラナミンだったか解読できない名前を書き記して出ていく。電柱が何本かへし折られている。逆さに滑って転ぶ儀式を横目で見る。スパイラルに開花する半透明の花を描くのに難儀する。塊のようになり重々しい鎖に変換して桃色に塗って水面に浮かべる。記述作業中に飲料を注ぐかどうか聞かれてイメージが切り替わる。二組の縦横に並んだ協議を同時に傍受する能力。縦長の裸電球の羅列。再来する日中のイメージに戻る。

「この山脈の隙間を抜けて100キロ程度北上すれば長江との結節点に着きます。そこで我々の高速艇が待っています。」
「一緒に来いという話ですか?」
「おそらくあなたは私にいくつか確認したいことが事がおありでしょう。」
ブォン、ボボボ、ブォボボー
「さ西田さんしっかりつかまってなさい。垂直上昇後すぐに水平飛行になる。落ちないように。」
「ひぇ〜(泣」




場面q-pog078 滝野川博士の横顔

「我々の部署は軍中枢と直接話ができる主流の位置にはなかったのです。
それが幸いして現実的な軍の方針と無関係にずいぶん自由な研究ができた。
だが、軍中枢に直接つながる権威ある部署にはそれが許されなかった。
彼らの中にも多くの優秀な人材がいたにも関わらず、
軍中枢の意向に常に見合ったにわか作りの開発しか許されない事情があったのです。」

「彼らのもとにはドイツから新しいテクノロジーの情報があったはずです。
しかしその要までを他国に明かす訳は無い。
軍中枢にはその可能性の本質領域を補い理解する直観力などは無かった。
ドイツのA型兵器は、たとえ兵器であってもその理念の最基層には未知の創作への夢があったのです。
テクノロジーというのはそういうものです。」

「いいですか、西田さん!
ドイツのロケット弾は敵地を攻撃する殺戮の兵器だとは言っても、
少なくても自国兵を危険に晒さぬがために開発されたという側面だけは忘れてはなりません。
ところが当時の軍中枢は、得るべき成果に見合うテクノロジーが欠如していた。
そのため人命がそれを補うという最悪の手立てしか見い出せなかったのです。
あの時点でドイツの研究とは無関係に、
我々の部署は独自でロケットエンジンの自動制御機能には目処をつけていました。
むしろ自立歩行制御の方が何倍も難しい技術なのです。」

「ただ我々には軍中枢の判断を動かすだけの政治的能力が欠けていた・・・。」

「・・・・・・・。」
「部隊長、先ほどから西田さんはすっかり寝入っておられます。」
「ははは、あの距離を半日飛び続けましたからね。毛布でもかけておやりなさい。」
「グゥゴ〜〜」




場面q-enu049 幻の作戦

暗号のような会話が左の座席で起こる。数種の演目は脳髄の中央で義太夫のような節回しとなって継続する。天空を模した天井。円筒の一部が切り取られはめ込まれ煙幕のような雲が描かれている一室。皿の上に紙筒が三本、スプーンの上に僅かに残った飲料が固まりかけるほどの乾燥。目線を水面ぎりぎりに持っていくと扁平な高速艇が無音で近づき、大柄な一人の男がこちらに乗り込むのが見えた。

「河をさかのぼってチベットに向かう連絡班だ。」
「ふ〜ん。ところでコック長、いくら中国来てるからって餃子とラーメン以外何か作れないの?」
「贅沢いいなさんな、これでも客人扱いでいいもの食わしてんだから。」

砕かれた赤い破片が湯飲みの底に沈殿する。不等辺多角形の音響装置が奥のテーブルに置かれている。

「そうよなぁ。軍は結局行った先の物資補給など、はなから考えてなかったんじゃないのかねぇ? 俺たちゃ何の戦線かもろくに知らずに着いた島でただ飢えと戦っただけだ。軍は思うように行かなければ玉砕命令出してその作戦は終わりという頭だったんだろうな。しかし、軍の方針と関係なくなんで動けたのか未だに分からんけんど、当時のカササギはずいぶん島々を回って見捨てられた部隊を救出したんだよ。お国じゃ俺たちはみんな玉砕したことになってるだろうなぁ。」

「ええっ? じゃ南方で生き残ってる部隊がけっこうあるんですか?」
「そうさなぁ、何万かの・・・・」
「コック長。いくら西田さんとはいえ、それ以上はお伝えできない。」
「あ、田島先生。すいません、つい口が緩みました。」
「田島先生?」
「はじめまして。あなたが西田さんですか。田島で御座います。かねてより滝野川先生からお話は聞かせて頂いております。」
「今の話ですと、カササギは軍の玉砕命令を無視して救援作戦を行っていたと? では今のカササギは万単位の兵力を持つ部隊という事ですか?」
「申し訳ありませんが、それにはお答えできません。」

スパイラル型の葉巻をくわえる少年の絵が扉の裏に張られてある。
夕食のための蛸とほうれん草がひとつの皿にのせられる。




場面q-vfr642 芸術による記録

100号の油彩画が食堂の壁にかかっていることに気付く西田。
「日本海溝に潜り移動するフラットホエール特殊潜水艇による救出計画・オクトパラウンジ移動式海底要塞での長期潜伏計画・海洋微生物を分解し食材を合成する技術・海底ジェット流の位置把握とそれを利用した発電・艦艇停止時のスクリューを水流で逆転させタービンを回す」というあまりに長いタイトルのプレートが絵の真下に張られてある。

sound http://revorida.2-d.jp/080115.htm


(残り資料調査中)


制作 Jabro-Revorida

原作 デザイン造形 音楽 Comap墨田

All Designs (C)Jabro−Revorida Comap墨田
(from 2007/09)