以下の記述はJASRACがターニングポイントに立ったと思われる2005年末以前のものです。
2006年現在、JASRACはJAZZ喫茶ライブハウスに関わる諸問題を適正化すべく改革方針を打ち出し、業界代表組織と協議中。



ライブハウス音楽喫茶の著作使用料徴収の問題点と今後の展望


まず、我々はJASRACがライブハウスと音楽喫茶に関して過去10年分遡及請求を行う根拠を明確に把握するべきである。

(1) 音楽喫茶の高額徴収の根拠

1970年著作権法改正時までは、全てのレコード演奏に関して支払い義務はなかった。この法改正によって、レコード演奏において支払い義務がある業種と無い業種に分類され、音楽喫茶は一般飲食店から区別されて、支払い義務があると定義された。この条項「著作権法附則14条」および「施行令附則3条」は、奇妙な成り立ちを持っている。

前段階の調査において、附則14条と施行令附則3条の成り立ちとその意味に関しては既にまとめてある。

JASRAC利用規定のいきさつ
「表現の自由と権利への挑戦でしょ、これ」
(「著作権法附則14条の実態」参照)

著作権法のこの項目を背景に、音楽喫茶は過去分の支払いを命ぜられているのである。しかし、実はこの附則14条は1999年に海外の団体から国際協定に違反すると指摘を受けて、廃止されているのだ。



(2) 一般商業施設からの徴収に対するある種の誤解

附則14条の撤廃にともなって、一般商業施設からの徴収が始まったわけだが、何からでもJASRACは徴収するという非難が見受けられる。しかし、一般商業施設の支払額は、ライブハウスや音楽喫茶の過酷な条件に比べると、年間数千円と、とんでもなく甘いものだ。

これは、どういうことかというと。附則14条はもともと一般商業施設の支払いを免除し、ごく一部の業種からだけ徴収するという不公平な内容だったが、この免除が国際協定に違反するという海外の団体からのクレームで撤廃したのである。しかし、これまでの体制を大きく変えることなく運営を行いたいJASRACとしては、最も安易な方策を打ち出したということだ。要は、「最早、免除というわけには行かなくなったので、年間数千円ぐらいは払ってもらいたい」ということだ。海外の著作権協会は、あらゆる音楽を扱う商業施設を平等に査定した使用料体系をつくり徴収にあたっている。このことから言えば、JASRACの一般商業施設年間数千円の料金設定は、むしろ手厚い保護措置と考えるべきなのだ。


(3) ライブハウスの過去使用分請求の問題点

直接侵害と間接侵害


ライブハウスに対する高額請求は実演に対するものなので、レコードの再生演奏に対する附則14条の措置とは本質が異なる。この場合重要なのは本来ライブハウス側に支払い責任があるのかという問題である。著作権侵害には、直接侵害と間接侵害があるが、現状で国は間接侵害責任を認めていない。JASRACはライブハウスへの過去分に関しては、これが直接侵害にあたるものとして請求を行っているということだ。(音楽喫茶の場合は異なる。)

もし、ライブハウス側が、ミュージシャンを雇って店の意向で曲を決めた場合は、経営者が直接侵害となる可能性はあるだろう。しかし、多くのライブハウスの営業形態は、個々のミュージシャンの主体性を最大限に尊重し、表現の場を提供するものとなっている。こういうライブハウスの場合、店側がミュージシャンに演奏曲を指示することはほとんど無いはずだ。また、カバーを行うバンドが出演することもあるかもしれないが、これは表現者としてのバンドの意志で選曲されている。こうした条件で、ライブハウスを直接侵害とすることが法的に可能なのかという疑問がある。

以上の視点から言えば、例えば、ライブハウスの出演者がJASRAC管理曲を演奏したという証拠を示して、ライブハウス側の責任を追及するのはおかしなことだ。JASRACは具体的証拠をつかんでいるのだから明らかとなっている直接侵害者(演奏者)へ本来責任を問うことが可能なのだ。


使用状況の調査が行われない過去分請求

しかし、実態はそれ以上に不可解な内容であるらしい。一切の使用状況の調査を行わないで過去使用分の支払いを命じているのである。JASRAC側は支払いを命じた相手側に、JASRAC管理曲を使用していないことを立証する責任があるという姿勢をとっている。使用していない証明を行わない限りJASRAC側の主張を受け入れざるを得ないというこの条件がもし法的に正しいとすれば、これは著しくライブハウス(利用者)側に不利な内容である。JASRACがこのような姿勢をとる以上は、なんらかの根拠が存在すると考えるべきだろう。これに関しては、近年著作権法に付加された「第百十四条の二」の内容が関係あるのではないかと推測する(はたしてどうなのか?)。

「著作権法 第百十四条の二」
裁判所は、著作権、出版権又は著作隣接権の侵害に係る訴訟においては、当事者の申立てにより、当事者に対し、当該侵害の行為について立証するため、又は当該侵害の行為による損害の計算をするため必要な書類の提出を命ずることができる。ただし、その書類の所持者においてその提出を拒むことについて正当な理由があるときは、この限りでない。

この条項の付加は、本来特許法の趣旨が著作権法に反映したものだという説がある。特許法でこうした条項が必要とされた理由は、被告側の生産工程が明確にならないと審議が進展しないことの問題かららしい。特許裁判でのこうした状況においては必要な条項と言えるだろう。しかし、JASRACのような大きな力を持つ管理団体が一般利用のトラブルにおいて、この条件を活用することには大きな危険があるだろう。