以下の記述はJASRACがターニングポイントに立ったと思われる2005年末以前のものです。
2006年現在、JASRACはJAZZ喫茶ライブハウスに関わる諸問題を適正化すべく改革方針を打ち出し、業界代表組織と協議中。


JASRAC利用規定のいきさつ

コマプ墨田


(1)支払い義務の発生

まず、JAZZ喫茶音楽喫茶という業種に、どの時からレコード演奏に対して著作使用料を支払う義務が生じたかをはっきり知ることが第一歩です。それは1970年(昭和45年)の著作権法の改正の時からです。それ以前はレコード演奏に関しては全ての業種に支払い義務はありませんでした。

1970年法改正の際に定義された内容は以下の通りです。

A



著作権法第22条(上演権及び演奏権)
著作者は、その著作物を、公衆に直接見せ又は聞かせることを目的として(以下「公に」という。)上演し、又は演奏する権利を専有する。

補足です→著作者が演奏に対する権利を独占してるので、使用する場合は許可が要る。つまり使用料を払うべし(信託契約において著作権所持はJASRAC)。演奏とはレコード演奏もこれに含まれる。(コマプ墨田)

B



著作権法附則第14条(録音物による演奏についての経過措置)
適法に録音された音楽の著作物の演奏の再生については、放送又は有線送信に該当するもの及び営利を目的として音楽の著作物を使用する事業で政令で定めるものにおいて行われるものを除き、当分の間、旧法第三十条第一項第八号及び第二項並びに同項に係る旧法第三十九条の規定は、なおその効力を有する。


著作権法施行令付則第3条において免除外となった3つの領域
[1]喫茶店その他客に飲食をさせる営業で、客に音楽を鑑賞させることを営業の内容とする旨を広告し、又は客に音楽を鑑賞させるための特別の設備を設けているもの(たとえば、名曲喫茶、ジャズ喫茶など)
[2]キャバレー、ナイトクラブ、ダンスホールその他フロアにおいて客にダンスをさせる営業(ディスコなども含まれる。)
[3]音楽を伴って行われる演劇、演芸、舞踊その他の芸能を観客に見せる事業


補足です→「旧法第三十九条の規定は、なおその効力を有する」とはレコード演奏の使用許可が不要であることを指します。(コマプ墨田)



A主体と括った方は著作権法の本文にある定義で、B追加と括った方は主体に対する追加項目で主体の内容をさらに拘束する定義です。この二つの定義の関係が重要です。あくまでもAが著作権法の主体です。これに対してBがさらにAの内容を制限しているという構図が重要なのです。

状況を整理しますと (↓)


1970年法改正以前

全ての商業施設はレコード演奏に対しての支払い義務はなかった。


1970年法改正での変更(1) 著作権法第22条
全ての商業施設に対してレコード演奏を含む支払い義務があると定める内容。第22条自体には例外(免除対象)を示す記述は無く、商業施設全てを支払い義務があるひとつの対象として定義する内容である。


1970年法改正での変更(2) 付則条項の追加
第22条の定義をさらに拘束する条項を同時に追加した。付則第14条は、第22条の効力を受ける領域があることをまず示し、それらを除き第22条の存在によって生じたレコード演奏への支払い義務は免除するという内容。さらに支払い義務が免除とならない3つの業種を施行令付則第3条によって定義した。



もっと単純に言いうと


1970年某日

「これから全ての商業施設はレコード演奏に対してお金払う義務があることになりました。」

「ええ〜!」

「でも大丈夫です。さらに皆さんを特別に免除としましたから。」

「なーんだ。」

「一部業種は除きますけど、たった3つですので、大多数は大丈夫ですよ。その3つに入る方はこちらとなってますのでよろしく〜。それ以外の全ての方は免除ですので。」



ということです。


参考サイト
http://www002.upp.so-net.ne.jp/ysuzuki/topic/BGM20030614.html
http://www.cric.or.jp/qa/sodan/sodan5_qa.html
http://www.jasrac.or.jp/release/01/10_3.html


(2) 1999年まで

かくして、付則第14条と施行令付則第3条の手短な文章だけで、音楽喫茶のその後のあり方は、商売としては他の飲食店の条件とたいして異ならないにもかかわらず、大きな区別をされて扱われる事になった訳です。これは一部にだけ異常に厳しい不当な設定でしょう。収益に関してはまったく他の飲食店と条件は違わないのですから。

「喫茶店その他客に飲食させる事業で、客に音楽を鑑賞させることを営業の内容とする旨を広告し、または客に音楽を鑑賞させるための特別の設備を設けているもの」

(↑) 当事者にとっては死活問題なのに、たったのこの一行で定義されてるだけなんですよ。

なにしろこれ、具体条件を全く伴わない定義なので、チャージを取らなくても鑑賞させているでしょう、特別の設備を設けているでしょう、とされれば、そういう業種だと即座になってしまうのです。(←異議がある場合は裁判で。) 何によって一般の飲食店と音楽喫茶を区別するのかというと、「音楽鑑賞を広告すること」と「そのための特別の設備」な訳ですが、これに対しての具体定義など何も無いのに経営者はどうやって営業形態を選べばよかったのでしょうか? 法律が示す条件を考慮して免除対象の一般飲食店と同じ営業内容にマイナーチェンジすれば、音楽喫茶は支払い義務を免除される資格を得ることが出来たのです。というより、はじめからそういう選択肢が準備されてないと公正であるとはいえないのですよ。

営業内容は実際はたいして違わないので、条件さえ詳細示してあれば簡単に変更はできたのです。たとえば、「宣伝にこういう項目が入った場合」とか「具体的に使用する機材のリスト、音量、店舗構成」とかがきちんと定義されていれば、これを避けた営業をすればよいのですから。それに対して、免除対象の一般飲食店の側には具体定義が無いことは有利に働くわけです。どんな高度な音響設備を設けても、「世界の音楽を聴きながらお食事を」などと宣伝しても問題なかったわけです。そりゃ、ないんじゃないでしょうか。


「掟はマヌケ、されど掟は掟なり。」

はっきり言わしてもらいますが、この法律は意図的にマヌケだったのではないでしょうか。


(3) 世界の標準

しかし、こんな法律は公正ではないので廃止し、もっと公平な環境を整備して著作使用料徴収を行うべきだ、と指摘した関係者は国内ではいなかった模様です。国民も何も言わなかったではないかとJASRACは言うかもしれませんが、1970年以来、状況の詳細を伝える広報活動など行われた形跡などありませんから、問題の実態すら知らない国民がほとんどでしょう。店側の状況としては、ある日突然契約書と規定が店に送られてくるだけのようです。それが、あまりに高額で支払う根拠も明確ではないと判断して、ほおって置いたら後で大変なことになってしまった、ということですね。

ところが、世界の眼はこの付則第14条は国際条約に照らしてあり得ない法律だと指摘してきました。つまり、あらゆる商業施設に対してレコード演奏の支払い義務があるというのが世界の標準なのに、それを免除する条項を付け加えることはおかしいということです。JASRACはこうした意見を妥当として国に法律の撤廃を要請し、国は1999年に付則第14条と施行令付則3条を撤廃した訳です。

ここで、世界の標準的徴収体制がどのようなものであるかを知ることが重要になります。一例としてネットに公開されているBMIの契約条項を見ると、非常に単純で公平なものであることが分ります。

BMIの場合、ライブ演奏、レコード演奏、ジュークボックス、TV、カラオケ、などのアイテムとそれらの利用時間のリストにチェックを入れることで支払額が算定されるようになっています。ライブでチャージをとる場合は別項目に追加でチェックを入れることになりますが、その額は大きな金額ではありません。この契約条項が全ての飲食店に一律に適用されます。つまり、「どのような飲食店においても行われる可能性が在るいくつかの音楽利用のアイテムを挙げますので、店側は必要な項目をそこから選び申請してください」ということです。BMIの基準で言えば、日本の音楽喫茶の営業形態などは何の問題も無く、一般飲食店と同じ扱いになります。というより、本来の世界の標準は、著作権者の権利が及ぶ領域と及ばない領域に分ける発想など原点に無いので、そうした条件下では当然BMIのような規定になるしかないのです。金額設定も、飲食店の経営に大きな負担となることは無いような範囲を十分意識したもののようです。

JASRACも国も、世界が付則第14条を国際条約違犯だとして問題視した根拠は、単純に著作権者の権利を不当に制限している部分が在るということだけなので、その部分を改善すればよい問題である、既存の徴収枠のあり方に関係する問題ではない、と判断しているようです。しかし、それは先に述べた付則第14条の成り立ちにおいて形式的に不可能なはずではないでしょうか?


参考サイト
BMI(米) http://www.bmi.com/ 
ASCAP(米) http://www.ascap.com/index.html
PRS(英) http://www.prs.co.uk/musiclicence/


(4) 付則第14条と施行令付則第3条を撤廃するということの形式上の意味

ここで、(1)で考えた事がポイントとなる訳です。実は単純な話なのですが。

1970年著作権法改正で第22条によって本来は全ての商業施設にレコード演奏も含む著作使用の支払い義務が生じました。この段階で音楽喫茶には支払い義務が生じました。一方で同時に一般の飲食店は免除対象となりました。このことからだけ見れば、海外からの指摘をクリアするには、一部領域に免除を定めた付則第14条を撤廃した後、単に今まで免除となっていた業種に支払い義務を科せばそれでいいのでしょうか? 基本姿勢としてはJASRACはそのように考えているのかもしれません。しかし、理論的にはそうはならないということです。


付則第14条と施行令付則第3条が行う定義は直接免除対象を定義していません。定義しているのは免除されない対象です。すなわち、免除されない対象を定義することによって、二次的に免除される対象も定義されたと同じ結果を導くという発想が、付則第14条と施行令付則第3条の特殊な性格としてあるわけです。

付則第14条と施行令付則第3条を撤廃するということは、そこで定義されたものを全て存在しない状態に戻すということです。この付則条項の定義によってだけ、これまであらしめられていた「免除されない領域と免除される領域」という一つの内容(二つの領域が在っても一つの内容であるということ)を分離して、一方を以前の条件のまま残し、一方に新たな追加措置を行うという操作は出来ません。付則条項を撤廃した時、これまでの「免除されない領域の定義」の内容も同時に失われ、全ての業種が本来の第22条の拘束を対等に受けるニュートラルな状態に戻ったはずなのです。つまり、著作権法第22条が発令され、その後付則第14条+施行令付則第3条が発令されるまでのほんの僅かの時間帯と同じ状態ということです。

施行令付則第3条によって結果的に示される「免除される領域」自体には直接の定義が与えられていないないので、施行令付則第3条での「免除されない領域の定義」が存在しなければ、この領域も単独で存在できないという認識が重要です。言い換えると「免除される領域」を定義することは「免除されない領域の定義」によってのみ完結し得ると言うことです。この意味で表裏一体なのです。

そうであるにもかかわらず、もしJASRACがかつて存在した付則第14条と施行令付則第3条の援用をもって、音楽喫茶などにこれまでと同じ条件を強いるのであれば、その根拠は著作権法からの保証によるものではないわけです。もし、JASRACが、音楽喫茶と一般飲食店にこれまでと同様に格差をつけて徴収を行うのが妥当だというのであれば、自らの規定自体でその合理性を国民に納得させられなければならないということです、本来は。



(5) もっと簡単に言うと

もし、付則条項が免除対象の方を定義したものであればこういうことでOKでしょうね。


[著作権法]
著作権法第22条によって全ての商業施設は支払い義務がある。

[付則条項 エックス]
ただし、次に定める業種は免除とする。 業種 A・B・C・D・E・・・・

支払い義務がある業種は定義しなくても第22条がもともと定義しているので問題なし。
(↑) これがポイントでしょう。本来はこうだということですから。

[付則条項の廃止]
業種 A・B・C・D・E・・・・の免除を廃止する。

[展開]
業種 A・B・C・D・E・・・・の条件を追加



でも、そういう設定ではないので現実はこうであるしかないのです。
(↓)


[著作権法]
著作権法第22条によって全ての商業施設は支払い義務がある。

[付則第14条+施行令付則第3条]
ただし、次に定める業種を除いて他は免除。 業種 a ・b ・c

[付則条項の廃止]
免除を廃止すると同時に同じ文言の中にある 業種 a ・b ・c の定義も失われる。

[展開]
全く新しく業種分類を行った上で当事者業界と国民による正当な評価を受ける。



さらに簡単に言うと・・・




「前に一部を除いて皆さん免除だと言ったのですが、それはとりやめになりましたぁ〜。」

「げっ、じゃ免除じゃなかった人たちと同じように払うの!」

「大丈夫で〜す。こちらの皆さんは別のソフトな規定が準備されていますので。」

「そうなの、でも、今まで払うように言われてた人の規定はどうなるですか?」

「それはもう決まってることなのでそのままですが、何か?」






「前に皆さんを免除する人と免除しない人に分けて、免除するひとはそうしたんですが、そのことはとりやめになりましたぁ〜。」

「げっ、じゃ免除じゃなかった人たちと同じように払うの!」

「でも、大元の法律は皆さん払うことになってたんですよね。一時免除という事でして。」

「そうなの、でも、今まで払うように言われていた人の規定だとちょっと厳しくないすか?」

「区別する法律がなくなったので、そこも含めてまた一から考えます。ご協力よろしく。」





続く